Creative directors: Teruhiro Yanagihara and Scholten & Baijings

2015.01.05 / Interview by Kanae Hasegawa about jp, arita, interviews, scholten & baijings, teruhiro yanagihara

2016/」のクリエイティブディレクターとしてこのプロジェクトを推し進めていくのは柳原 照弘とオランダのデザインデュオ、ショルテン&バーイングス。どちらもすでに有田焼の仕事は経験済み。有田焼の新たなブランド「1616 / arita japan 」にデザイナーとして関わり、世界的な成功へと導いてきた。そしてこのほど立ち上がったばかりの「2016/」プロジェクトでは、日本および海外のデザイナーと、有田焼の窯元、商社の人たちとが一丸となって400年あまりの歴史を持つ有田焼をアップデートしようという意欲的な取り組みを行っている。柳原さんとショルテン&バーイングスは新たな有田焼をデザインすることになるデザイナーを選び、直接声をかけていった。そして、世界各地からデザイナーたちが実際に有田を訪れ、メーカーそれぞれが持つ技術を生かした新たな有田焼のデザインを探ることができるようにプロジェクトの道筋をつけていく。有田焼の新たな船出として期待がかかるこの「2016/」プロジェクト。プロジェクト実現に向けた思いについて、柳原さんとステファン・ショルテンさんに話を聞いた。

 

―どのようないきさつから、ショルテン&バーイングスが「2016/」に関わることになったのですか?
ステファン・ショルテン:2011年に「1616 / arita japan」という新たな有田焼のブランドに関わったことが始まりでした。「1616 / arita japan」は百田陶園という歴史を江戸時代にさかのぼる有田焼の商社から誕生したテーブルウェアブランドです。百田陶園の社長である百田さんは縮小する有田焼市場を何とかしたいと、藁をもつかむ思いでデザイナーの柳原さんに相談したんです。そこから柳原さんと百田陶園でこれまでとは違う有田焼を作ることになり、生まれたのが「1616 / arita japan」です。柳原さんから有田焼のデザイナーとして私たちにも関わってほしいと提案があり、私たちもすぐに有田を訪れ、新しいテーブルウェアをデザインしました。「1616 / arita japan」は2012年のミラノのデザインウィークの期間中に発表し、多くの注目を集めました。特にエルデコ誌から翌年のエルデコインターナショナルデザインアワードのテーブルウェア部門で受賞したことで世界的な評価をいただきました。百田陶園にとっては大きなリスクを負っての挑戦だったと思いますが、この成功から百田さんは有田焼の他の窯元にも同様に海外のデザイナーたちとこれまでにない有田焼づくりに取り組むことを強く勧め、「1616 / arita japan」が広がったかたちで「2016/」が立ち上がりました。

 

―どのような思いで「2016/」に取り組んでいらっしゃるのですか?そして、プロジェクトの共同クリエイティブディレクターにオランダを拠点とするショルテン&バーイングスを選んだのはなぜですか?
柳原照弘:1718世紀の有田焼の黄金時代のステータスをもう一度取り戻したいという思いで取り組んでいます。かつて有田焼は、唯一日本との貿易が許されていたオランダの東インド会社を通して海外に渡り、国内向けよりも輸出品の割合が高かったのです。そんなこともあって有田焼の図柄は西洋人の要望に応えるように、西洋のイメージを持つものが多く存在します。そうした要求に有田の職人が応えることで有田焼は海外に広まったのです。有田焼のクオリティは今でも変わっていませんが、周りの社会は大きく変わりました。そうした社会に対応しない製品を作っても海外の人たちは買ってくれないでしょう。美術品として美術館のケースの中で愛でることはあっても、毎日の暮らしの中で使われる焼き物を作るには、有田焼の考え方自体もアップデートする必要があります。彼らに使ってもらうには今の海外の人たちの声を聞くことが大切です。そこで、ショルテン&バーイングスに、一緒にコーディレクターとして関わってもらうことにしました。彼らはプロダクトデザイナーとして優れた才能を持っていると同時に、海外からの視点を「2016/」に与えてくれるでしょう。かつての東インド会社がそうであったように、有田焼と海外との橋渡し役にふさわしいと思ったのです。

 

―海外のデザイナーは有田焼に何をもたらすことになるのでしょう?
ステファン・ショルテン:有田焼と同じように高い職人技を持つ歴史あるアイルランドのクリスタルメーカー、J. HILL’s Standardと仕事をしたことがあります。その経験から話しますとデザイナーは歴史あるもの作りに新たな息吹を吹き込むことができると思っています。有田焼の職人たちは経験に裏打ちされたノウハウを持っています。しかし外からの目や刺激というものが殆どない。海外のデザイナーはこれまでの有田焼になかったテーブルウェアのジャンルを提案することができると考えています。それだけではありません。新たな有田焼を持って海外のデザイナーが自国に帰れば、海外の人の目に有田焼が触れることになる。その結果、海外のブランドがテーブルウェアを作ろうとする際、有田に生産を依頼することも考えられます。実際、我々がデザインした「1616 / arita japan」を知ったデンマークのブランドHAYやジョージ・ジェンセンはテーブルウェアの生産を百田陶園に発注しています。「2016/」ではオランダ、アメリカ、スウェーデン、ドイツ、フランス、スイス、イギリスなどのデザイナーが参加します。彼らは自国に「2016/」を広めてくれることでしょう。16人の国際的なデザイナーとモノづくりを行うということは「2016/」オリジナルブランドに加えて、海外ブランドからの生産を引き受けるという仕事が生まれる可能性があります。

 

16人のデザイナーたちはプロジェクトに参加することで何を得ることになるのでしょう?
ステファン・ショルテン:多くのことを得るはずです。有田焼のように約400年の歴史を持つ産業は、今はとても少ないのですから。その400年は歴史だけではなく、知識の積み重なりなのです。デザイナーたちはそのような歴史を持つ有田の町に滞在し、土地の風習を肌で感じることになります。そうした中、デザイナーたちは有田焼が生まれた地理上の特徴、受け継がれてきた磁器の製造方法、さまざまな製造工程、有田焼のモノを越えた産業構造について学び、多くの発見をすることになります。

 

―有田焼の魅力はどんなところにあると感じていますか?
ステファン・ショルテン:歴史と同時に、新しい製造技術がもたらす新たな有田焼の可能性にも期待しています。佐賀県の窯業技術センターでは同じ形でも磁器の組成を変えることで同じ形でも10%軽い磁器を作ることに成功しています。これはレストランのような場所では大きなメリットになります。コンピュータ制御によるCNC研削、射出成型などを使った新たな焼き物の作り方も探っていきたい。デザイナーたちにはこうした新しい技術と有田が培ってきた職人の手技をうまく組み合わせるデザインを考えてもらいたいですね。デザイナーにとって大変なのは、窯元の職人のみなさんに、知らないこと、あるいはこれまでと違うことに挑戦してもらうことだと思います。しかし、有田焼の新たな活路を見出すためにはそれが必要不可欠です。

 

―柳原さん、「2016/」のこれからについてお聞かせください。
柳原 照弘:2014年中に16人のデザイナー全員が既に有田を訪れ、10の窯元を巡る中、有田焼を作る職人たちの技を間近で見てきました。デザイナーからは、スタンダードシリーズとエディションシリーズの提案を受け、試作品の制作に取り掛かっています。2015年のミラノで試作品の確認をデザイナーと行い、デザイナーから窯元へのフィードバックを経て、改良を繰り返し、最終的には2016年のミラノの国際家具見本市の時期に「2016/」の製品を発表したいと考えています。とは言っても、このプロジェクトは新しい有田焼を作ることだけを目標にしているのではないんです。「2016/」が成功することで海外のデザイナーとものづくりをする取り組みが日本の他の産業にも広がっていき、国際的な市場でモノ作りができる土壌が生まれることが重要です。