Interview: 香蘭社 深川祐次

2015.04.09 / Interview by Kanae Hasegawa ingegerd raman, interviews, koransha co., ltd., wieki somers

有田町で磁器づくりに携わる香蘭社。326年前に、初代深川栄左右衛門が磁器製造を始めた。創業時から海外向けの磁器製作に力を入れ、有田焼を海外に広めてきたフロントランナーだ。こうした先進的なビジョンを持ってきた香蘭社が21世紀の今、どのような新たなビジョンを掲げて「2016/ project 」に参加するのか、深川祐次社長に聞いた。

 

- 香蘭社の現組織としての創業は1879年。日本の美術工芸品がヨーロッパの文化人たちを魅了したジャポニスムの時代のさなかです。

それまで閉ざされていた国ですから、明治になって海外に出よう、と多くの人が意気盛んになっていた頃です。日本ではまだ産業といえるものがなかった時代ですから、海外に輸出して外貨を獲得しようと、香蘭社も輸出向け磁器生産に力を入れていました。金彩を施した豪華で見栄えのする香蘭社の磁器は今でもヨーロッパの骨董商などが扱い、コレクターの間で人気があるようです。

 

- 香蘭社の強みはどんなところにあるのでしょう?

有田焼は窯ごとに素地づくり、下絵付け、釉薬かけ、上絵付け、焼成、と分業化されていることが多いのですが、当社はすべてを自社内で行ってきました。そのための設備を整えています。まず磁器作りでは陶土を流し込んで成型するための石膏型が必要です。この石膏型を人の手で作るとなると相当熟練した技術を要します。 石膏型の完成度が高くないとできあがりの磁器すべてに影響しますから。そこでコンピュータ制御による型の設計を導入しており、狂いのない型作りを可能にしています。機械に任せた方が効果的なところは機械化し、職人は絵付けに注力できる。先進技術と高度な職人芸をうまく組み合わせることで事業を進めてきました。

 

- そんな香蘭社でも現在、課題を抱えているのですか?

当社の磁器は精緻に絵付けの施されたいわば美術品の部類に入る磁器です。そのため主な卸先は百貨店のテーブルウェア部門です。しかし、結婚式などの引き出物向けの需要が減少する昨今、売上も伸び悩んでいます。窯に新たな息吹を吹き込んでいかなくては、という思いから「2016/」に参加したのです。

 

- 海外のデザイナーと出会い、新たな有田焼づくりに挑んでみてどうですか?

香蘭社はこれまで金彩や加飾の施された磁器で勝負してきました。それが香蘭社の磁器だったのです。しかし、このプロジェクトで私たちがあるデザイナーから受けた提案は、装飾的な要素を排し、フォルムと釉掛けのみで新しい商品を作ろうというものでした。ですから、私たちは磁器に対する固定化した価値観や考えを変えなくてはなりません。職人たちは慣れ親しんだ手順を離れ、冒険のような毎日だと思いますが真剣に取り組んでくれています。とまどいもあるようですが、デザイナーからの発想に職人魂が刺激されいるようでとても良い熱を帯びてきています。

 

-2016/ project 」に関わることでどのような道が開けると期待しますか?

このプロジェクトの特徴は異なる窯元がみな共通の目的意識を持ち、それぞれのノウハウをシェアする姿勢にあることです。通常であれば、企業同士、技術を秘蔵して非公開にしている工房や設備ですが、2016/では10の窯元を一体化して捉えています。そのため、互いの焼成窯や絵付け工場などを見学しています。窯元、商社すべてが揃うミーティングを定期的に行い、それぞれの窯元とデザイナーとの新しい商品開発の進み具合を報告していますが、香蘭社の技術者たちがどうしもできないと頭を抱えるデザインでも、ほかの窯元の職人さんたちが「こうすればできる」と知識やノウハウを伝授してくれる。それはこのプロジェクトでしかできないことでしょう。