Interview: 瀬兵 瀬戸口皓嗣

2015.10.06 Interview by Kanae Hasegawa interviews, kirsten van noort, sehyou & co. ltd. ,

2016/」に参加する窯元の一つ、瀬兵窯。第二次世界大戦前に創業し、現在は三代目。歴史ある有田焼の中にあって、創業時からの進取の精神で常に新しいことに挑戦してきた窯元だ。意表を突く磁器づくりで知られる瀬兵窯の瀬戸口さんに「2016/」でのチャレンジについて話を聞いた。

 

- 有田焼の歴史の中で、瀬兵窯は比較的若い窯元です。その磁器の特徴はどのようなところにあるのですか?

有田焼は伝統があるゆえに過去の歴史的名品に倣うなど、写しのような形、図柄が多く生まれる傾向にあります。こうした中、私たちは真似をしていては他社と差別化できないと考えました。そこで着目したのが天然物から釉をつくるということ。現在一般的に今の焼き物に施されている釉薬と呼ばれているものは、ほとんどといってよいほど天然の鉱物にさまざまな材料を混ぜ合わせた人工物です。少々乱暴な言い方をすれば、人間が強制的に作り出したもの。なぜかと言うと工業製品として売る以上、均質な発色が求められるからです。天然の鉱物だと色をコントロールできず、ばらつきが出てしまう。それを防ぐため、焼き物産業はおのずと石灰を混ぜて溶ける温度を調整し、鉄、銅、コバルトなどの金属成分を混ぜるようになりました。しかし、天然の鉱物だけでつくられた釉をかけると、同じ窯、同じ温度で焼いても、鉱物が取れた土の層の違いによって焼き上がりの色が変わるんです。人為の及ばぬ自然そのものの力が生み出すものですよね。そこに価値がある、差別化の可能性を感じたのです。職人が一筆一筆絵を描いていく手描きの装飾も唯一無二の製品ができるという意味で差別化につながりますが、この手法では量産体制が整いません。量産を主眼に置きながらも、釉薬の自然な振る舞いに任せる手法を取ることにしたのです。

 

- “天然物を釉薬として使うということですが、具体的にどのようなものを使っているのですか?
私どもの窯がある伊万里市はかつて鍋島藩のお抱え窯が集まっていたエリアで周りにはクオリティーの高い陶土、珪石がたくさん産出されます。青磁、長石といった釉として使えそうな石を見つけると、ミルで粉状に砕いて水で溶き、溶いたものをエアガンで素焼きの器に吹き付けます。その後、窯で焼いてみます。使える石かどうかの判断は経験から得た勘ですね。

 

- とてもラディカルなことをなさっているようで実は長年の経験がなければできないことですね。
そうかもしれませんが、理解してもらうのは難しい。クラフト作家の1点ものであればそれでいいのですが、うちは業務用の器を作っています。商社は1万個発注したら、1万個がすべて同じ形色をしていることを求めるものですし、買う人も同じでしょう。その意識をどうやったら変えることができるか模索しているところです。

 

- 天然の釉は釉薬とどう違って、なぜ違うのか、こうして伝えていくことが重要だと思います。知る、ということは人の意識が広がることを意味していると思います。「2016/」に参加することで何を期待されていますか?

瀬兵を技術集団にすることです。それは経験から得たノウハウ、そして新しいテクノロジーを使いこなすことで新しい磁器の表現に取り組むという意味です。長年の経験から土は古くなると成分が安定することが分かっています。その性質を生かして20年寝かせた陶土を使い、そこに顔料を混ぜ込んで釉薬の代わりにする、というこれまで誰もやったことのない釉がけの方法を探っています。ノウハウを蓄積していくこと。そのために「2016/」への参加は実験の場としても捉えどんどんチャレンジしています。ほかと違うことをやりたいという性分なんです。