Interview: Tomás Alonso
「2016/」プロジェクトに参加するスペイン人デザイナー、トマス・アロンソ。シンプルかつ控えめではあるが、独創性を持った デザインが彼の持ち味と言える。トマス・アロンソは今、有田の職人が持つ高い技術と精密さを最大限に駆使し、複数のオブジェからなるシリーズを生み出そうとしている。
- プロジェクトへの参加の依頼を受けた時は?
とてもうれしかったです。有田焼は、このプロジェクトのディレクターでもある2人が手がけている1616 / arita japanのコレクションを見たことがあり知っていましたし、有田の職人がどんな技術を持っているかも聞いたことがありました。初めて有田を訪ね て話に聞いていた技術を直接自分の目で見た時、これはすごいと。ヨーロッパでは不可能と過去に言われたことがあるプロセスについて有田の方に 尋ねると、「できますよ。いつもやっていることです」と言われました。この言葉にはとても感銘を受けました。
- 初めての有田で、一番印象的だったことは?
窯の技術はこれまで僕が見たどれとも違うものでした。彼らによって、僕たちデザイナーは新しいことを成し遂げることができるのだと思いました。
また、この地域一帯の組織体制にも驚きました。たとえば有田には窯業技術センターという大きな県の施設があり、いつでも製造のプロセスや素材についてなどをサポートしてくれます。この設備は、産業を前進させる上でとても役立っているのではないでしょうか。 そして忘れてはならないことがひとつ。この「2016/」プロジェクトに参加している窯や商社ですが、普段彼らは競合相手であるということ。しかし、低迷する産業を再び軌道に載せていくためには、みなで力を合わせなくてはならないと彼らは理解しているのです。これは注目すべきことで、同じようなことが他の地域でそう多く起こるとは考えられません。
- 何かアイデアを持って、有田の訪問に臨みましたか?
いいえ。工場を訪問するときはだいたい頭を真っ白にした状態で行きます。もちろん多くの事を学びたいですし学ぼうと思っていますが、先入観から来る影響をあまり受けたくないのです。
- クリエイティブブリーフ、そして有田訪問の結果、あなたのデザインするコレクションの原則は何ですか?
プロジェクトからは装飾品のデザインを依頼されたので、限定された機能だけではなく、環境によって様々なアレンジが可能な一連のシリーズからなるプロダクトを思い付きました。これはコレクションの商業的な成功につながります。それはクリエイティブブリーフに記された重要なポイントでもあります。つまり、展示物ではなく売れるものを作ること、参加している事業者を真の意味で変えることができるデザインであるということです。
- そのクリエイティブブリーフを聞いた時は?
とても重要なことで、リアリティを持ってやるべきことをやらなくてはいけないと思っています。先にも述べたように、有田は産業として非常に厳しい状況の中、窯元にとって重大なそして最後のチャンスになる可能性もあるというプレッシャーを感じています。
- あなたのデザインを形にしていく中で、これが有田焼特有のテクニックだと言えるものは何でしょうか?
成型のテクニック、形を維持しながら焼く方法など、”正確さ”だと思います。今回僕のデザインした磁器の形はとてもシンプルでベーシックなものですが、実は非常に挑戦的なデザインでもあります。もし誰かがこのデザインを形にできるかと言えば、それはやはり彼らでしょう。また、今回私たちは有田で開発された特別な陶土を使っています。その陶土は薄くて強い磁器を製造することが可能で、ラインのくっきりとした幾何学的な形を生み出せます。もし一般的に使用されている陶土を使っていたら、ここまで素晴らしい結果には至っていないと思います。
- 窯元について、一番印象的だったことはどんなことでしょうか?
精密さのレベル、職人たちの粘り強さです。職人たちはこれでよしという確信が持てるまで、あともうひとがんばりの努力をおしまないのです。