Interview: 畑萬陶苑 畑石修嗣

2016.09.12 Interview by Kanae Hasegawa hataman touen corporation, interviews, leon ransmeier

有田焼の中にあって伊万里市の山間にある大川内山を拠点にする畑萬陶苑。この地域で産出する特殊な石を原料にした青磁釉薬で、約80年に渡って芸術性の高い磁器を作り続けてきた。その畑萬陶苑は「2016/」で何に挑み、何を得たのだろうか?5代目を担う畑石修嗣さんに尋ねた。

 

- 代々新しいことに挑戦する意気込みをお持ちのようですが、今回「2016/」に加わることにした背景についてお聞かせください。

動機としてはやはり「1616/ arita japan」の存在が大きかった。最初、1616のアイテムを見た際に今までの有田焼とは全く異なる焼き物を目にして衝撃が走ったことを今でも鮮明に覚えています。「1616/ arita japan」ブランドを立ち上げた百田陶園の百田さんからは「これのどこが有田焼なの?」という批判の声が最初は多かったと聞いていましたが、僕の見方は逆で、有田焼がこれほど大きく前進した、と強く感じたのです。その後、百田さんにミラノサローネに行くからお前も行きたいなら一緒に行くか?と冗談交じりに言われ、そこで二つ返事で「はい、行きます!」と決断したんです。ミラノサローネで時代の最先端の様々な情報を肌で感じ取った事は僕の中の意識を大きく変えました。

 

3組のデザイナーとそれぞれ新製品を作るという「2016/」の窯元の中でも一番仕事量が多かったのではないでしょうか? 

最終的には弊社だけで90点以上のアイテム数を製作することになりました。今回、海外のデザイナーと一緒にモノを作るという事は弊社としては初めての事でもありました。その上に、3名のデザイナーとのマッチアップを柳原さんから伝えられた時には正直大丈夫かという不安もありましたが、挑戦するという事、そして、「できない」と初めから言わない、と心に決めていたので、平行して3デザイナーとのモノづくりであっても絶対にクリアしてみせるという意気込みで臨みました。

 

レオン・ランスマイヤーさんのデザインには潔いくらい装飾、絵付けも見られず、驚きます。白い磁器の肌がきれいですがこれは畑萬陶苑らしさが出ているデザインなのでしょうか?

今回、ランスマイヤーと組むことになり提案した事が一つあります。それは、窯の生産性を上げていくような商品を考えて欲しいということでした。弊社は鍋島焼という歴史を背景に、手仕事を中心としたモノづくりを行ってきました。しかし、時代の流れもあり窯業界もあまり良い状況とは言えません。そんな中で窯の生産性向上につながる商品開発は急務でした。デザイナーと約2年という歳月をかけて信頼関係を築き、試行錯誤の中から生まれたものは、やはりオリジナリティを持っていると思います。

 

最初のランスマイヤーからのデザイン案からどのように変更を加え、プロトタイプへと落ち着いたのか教えてください。

最初のデザインから形状の変更はほとんどありませんでしたが、量産品を作ることを念頭にした商品開発でしたので、工場生産が可能となるように細かい部分の修正を重ねていきました。たとえば器の口の厚みが厚いので1ミリメートル薄くして欲しいとか、持ちやすさという点で高台の形が気になるなど、デザイナーがこだわった点は、お互いが納得しながら詰めていけたかと思います。

 

ポットのハンドルの形はあまり見かけないものですが、これを作るのは大変でしたか?

今まで見ることのなかった形です。コンセプトとして使う持つという事を別々に考え、それを融合させることによって新しい形を生み出すという考え方でした。しかし、それを実際に一つの塊として見せるという点では難しかったです。素地の仕上げなどでは一つ一つ丁寧にやっていく必要があるので、かなり気を使うアイテムです。

 

どんなところが大変だったのでしょう?

ポットやベース(花器)のハンドルがとても大きく、通常ですと焼成時に大きく変形してしまうという問題があります。この点が最初デザインを見た時にどうやってクリアしようかと悩んだ点です。しかし、これは思いもよらない方法で解決しました。ランスマイヤーには磁器の素材感にもこだわりたいという思いがあり、器に関しては内側にだけ釉薬をかけて外は釉薬をかけない(空焼き)というデザインを出してきました。そうする中でポットとベースに関しても統一感を出すために外は空焼きにしたいという提案が上がってきました。そうすると外に釉薬がかかっていないから、窯に入れる際、ハンドルの下面に支えを入れて焼くことができると判断しました。

 

ミラノでの展示を終え、最終調整ではどのような修正を加えたのですか?

ミラノ向けにサンプルで流していく際には少量ですので目が行き届いていたところも、量産に入ると数が多くなる分ディティール等への確認が難しくなってきます。窯の状況もありますが人為的な所もあります。これは、製作していく中で解決しながら進んでいくしかないと考えています。あとは生産性を上げていくために歩留りを上げるという考え方があります。窯に100個入れて何個商品として取れるのかということですが、このパーセンテージを上げていくことが最も重要だと考えています。

 

畑萬陶苑としてはウェブサイトが充実していてそこで催事への出展などの情報も載っていて製品を購入できる窓口がありますが、「2016/」での畑萬陶苑の製品は、レオンさん、サスキア・ディーツさんのモノも含めて、今後どこで販売することを念頭に入れていますか?

今回の「2016/」のプロダクトに関しては参加商社さんで新しく立ち上げられた新会社の2016/株式会社の商品になりますので我々窯元は受注生産という形でこの新会社に納めることになります。ですので、我々が直接販売を行うということはありません。しかし、担当商社の百田陶園と流通の話をする中で、ランスマイヤーのアイテムは自国のアメリカでの市場、サスキア・ディーツのアイテムはジュエリーなのでアパレル関係の流通を視野に入れて展開するなど、セグメント化して販路を選んでもいいのかなと思っています。

 

-2016/」を通して学んだことはなんでしょう?

2016/」のプロジェクト立ち上げ当初のプロジェクト名はプラットホーム事業という名前でした。 有田をプラットホームとして考える事により多くの人を呼び込み、人的交流も含めてモノづくりにどのようにして携わっていくかという趣旨がありました。学んだことは何かと考えれば、まさにこの部分ではないかと思います。もちろん商品を開発していく中で学んだ技術的な事等もありますが16の窯元商社の事業者で構成された「2016チーム」と呼べるチームプレイが今回のミラノでの展示を成功に導いたのだと感じています。僕はこの事業者の中では最年少でしたが、同じ目線で色々なことを教えてもらい、技術的な事に関しても他の窯元さんに相談し解決したことも多くあります。同じように他の窯元さん商社さん同士でも、お互いの商品に関しての指摘などをみんなでしていくことによってクオリティー等も上がっていきました。