Interview: 錦右ヱ門陶苑 山口幸一郎

2016.11.15 Interview by Kanae Hasegawa interviews, kin’emon toen co., ltd., kueng caputo,

2016/」が立ち上がるきっかけとなった「1616 / arita japan」ブランドの窯元である錦右エ門陶苑。1926年の創業以来、割烹食器を軸にした装飾的な商品展開を行ってきたが、「2016/」では彫刻的な造形の上に吹き付けた釉薬のグラデーションが印象的なテーブルウェアコレクションを発表した。最後の最後まで釉薬のニュアンスを出すのに難儀したという錦右エ門陶苑の山口幸一郎さんに吹付の難しさについて尋ねた。

 

- 錦右エ門陶苑は吹付・色釉・掛け分け・交趾を得意としていると理解しているのですが、クーン・カプートとのプロダクトではどんな技法に挑んだのですか?

うちでは3軒の生地屋さんと取引していますが、素焼きをして納品する生地屋さんとそうでない生地屋さんがあります。素焼きをしてあるものははじめに生地チェックを行います。後で吹付を行う際に、傷が表面に浮き出ることがないよう全体をくまなくチェックします。綺麗に表面を削りサンドペーパーがけをします。素焼きをしていないものは素焼きから始めます。生地の美しい仕上がりが後の発色を左右するのでこの生地チェックは重要です。その後、くぼんだ中心部をマスキングし、側面にグラデーションをつけつつ吹き付け、その後マスキングを剥がして中心部を吹き付けます。その後に焼成です。クーン・カプートとのプロダクトでは吹付の技法のみが使われています。

 

- クーン・カプートから提案されたデザインは造形的に生地屋さんが容易に作ることができるものでしたか?

カプートのプロダクトは鋳込みで作っています。通常、例えば花びんなどは上から鋳込むのが普通なのですが、カプートのものは形状が特殊であるため後ろから表面に向けて鋳込みます。表面がへこんでいるデザインなので、型から外す時にそのへこんでいる表面に泥漿がたまってしまったり、またゆっくりと型から外さないと形状が変形してしまうという難しさがあります。

 

- 試作をどのように重ねて最終的に色はどのように決まったのですか?

多くの色のサンプルをデザイナーのいるスイスに送りました。そしてデザイナー2人が有田に来た時に絞り込みました。その中でツヤが出てしまうもの、つまりマットな色合いにならないものは外されました。

 

- 吹付によって影が生まれているところが見事です。どのようにして影をつくっているのですか?

グラデーションをつけるため、吹きつける角度などにテクニックが必要です。それと同時に、吹き付けた時の色合いと焼成後の色合いは違うので、焼成後の色合いを想像するためには経験値も必要です。今でも焼成後の色の抜けを計算するのは難しい。窯の調子にもよりますし、色だけでなくツヤも少しの温度差で変わってきます。藤城さんのプロダクトも手がけており、赤やグレーの釉薬をかけた後、マットの釉薬を吹き付けてから焼いていますが、マット釉を安定させるのは難しいです。通常は薄く色を出すのですが、2016/では強く発色させていますし、特にグレーは、色ムラが焼きあがってから浮かび上がります。

 

-1616 / arita japan 」での経験や成功体験は、「2016/」での開発を順調に進める後押しとなったのでしょうか?想定外のこともいろいろとありましたか?

形状に関しては、クーン・カプートのプロダクトは、すべて鋳込みのため厚みにばらつきが出るのが難しいです。色については発色を安定させるに至るまでは「1616 / arita japan 」も「2016/」も同じだと思います。量産に入ると今までとは違ったチャレンジが始まります。現場の職人さんとの技術のすり合わせだったり、焼成の際の調整だったりします。窯の中でも温度差があるので、形や色によって焼く位置も変更しなければなりません。

 

- 4月のミラノサローネでの発表後、海外のバイヤー、想定エンドユーザーからはどんなフィードバックがありましたか?

どのような形状が難しいのかは、プロの方はお分かりになるでしょうし、グラデーションも完成されているとお褒めの言葉をいただきました。その評価を肌で感じられることができたのがよかったです。