Interview: Shigeki Fujishiro

2016.07.20 Interview by Kanae Hasegawa interviews, kin’emon toen co., ltd.,

2016/」にデザイナーとして参加し、有田焼の新たな用途の開拓の1つとして、窯元の錦右衛門とともにキッチンツールの製作に取り組んできた藤城成貴さん。焼き物のデザインを手掛けるのは初めてという藤城さんにプロジェクトを通して学んだことについて尋ねた。

 

- 藤城さんにはキッチンツールのデザインの依頼があったと聞いています。デザインしたものの中には醤油さし、おろし金もあるのですね。なぜこういったアイテムを作ろうと思ったのですか?

2016 /」の多くは日本国外の市場向けの製品開発にも注力していますが、ディレクターの一人である柳原さんを除くと、参加しているデザイナーの中で僕は唯一の日本人ということもあり、僕には日本の市場を意識したキッチン・アクセサリーをデザインしてほしいというお題がありました。

 

赤い色の釉薬が印象的です。従来の有田焼のイメージとは異なりますね。

実は古い有田焼を見ると赤絵という1つの技法があるくらい赤は象徴的で、壺、器などさまざまな焼き物に使われていました。従来はポイントとしてところどころに絵付けを施すものなのですが、全体を赤の釉薬で被うことを考えたのです。ところが僕が欲しかった赤色がなかなか出ない。艶のないマットな赤を求めていたのですが、つるっとした艶のかかった赤ができてしまうんです。

  

なぜそこまで赤の質感にこだわるのですか?

色に艶があると周りが写り込むなど、余分な情報が入ります。すると目は純粋な意味で形に集中できなくなります。つまり、マットな表面の方が形はきれいに見える。艶のある色の方が本来の磁器らしいという見方もあると思いますが、僕にとってはいかにも磁器らしいものではなく、形がきれいに見える方が重要だったのです。

 

デザインの過程でかなりの数の模型を作っていましたね。

把手の厚みなどを紙で何度も形づくり検証しました。ピッチャーの把手は、はじめ厚みがかなり薄いものを紙の模型で提案したのですが、焼き物の重さになるとピッチャー本体を持ち上げるために把手の接地面の厚みが必要になることが分かりました。また、素焼きをする前の生地の段階で薄い把手ですと、生地そのものの重みで窯の中で湾曲してしまうことが分かりました。自分の手で模型を作ることで、手で確かめながら形を模索していきたいので、3Dプリンターを使うことはありません。

 

初めて焼き物のデザインを手掛けて、何が大変でしたか?

思い描いたとおりの色を釉薬で実現することに腐心しました。画家が絵具をパレットの上で混ぜるのとは異なり、釉掛けは化学実験に近いことを知りました。焼成後に赤くなる釉薬は素焼きの焼き物の上にかける液体状の段階ではまったく赤くないので、赤い色になることは分かりません。この物質を1200℃で焼くとどうなるか、という化学物質の結合です。形の面でいうと、生地の収縮率の違いに悩まされました。どの家庭のテーブルに置いても馴染むように、アイテムは四角と正円の形で統一しようとしたのですが、生地の収縮率は生地の厚さによって異なるため、模型で実現していた形がそのまま焼成後の焼き物で実現しない。たとえばおろし金の円形の部分は、おろしたものが下部に溜まるように傾斜させ、上部と下部で生地の厚みを変えています。すると窯の中で均一に収縮しないため、焼成後の形が変わってくるということは読み切れないんです。

 

一方で初めてだから取り組めたこともあるのではないですか?

そのとおりです。知識はときにブレーキになってしまいます。焼き物のデザインを経験済みであれば、焼き物で可能な色・形という枠の中でデザインの提案をするのでしょうが、十分な知識がなかったからこそ、自由な発想ができたと思います。経験値だけではこれまでにない有田焼のデザインを生むのは難しいときもあると思います。作る側の窯元は「そんな色・形は技術的に不可能」と難色を示すこともありますが、その不可能をどこまで可能に近づけるかが「2016/」の当初の狙いのひとつでもあると思っています。