Interview: Pauline Deltour

2015.11.06 Interview by Kanae Hasegawa interviews, , pauline deltour

2016/」に参加しているフランス人のデザイナー、ポーリーン・デルター。磁器のデザインは初めてという彼女に有田を訪れての印象、そして有田焼での挑戦について尋ねた。

 

- 有田を訪れ、滞在してみてどのような印象を受けましたか?

山々に囲まれ、温泉が湧き、どこまでも続きそうな田んぼと隣り合わせに、民家が点在するという牧歌的な有田の光景は、産業からはほど遠いイメージです。そうした町に磁器産業に関わるあらゆるもの・ことが集約していることに驚きました。工場、窯、職人、技術、ノウハウ、商社、いずれもトップクラスのレベルがこれだけの数で集まっているというのは、デザイナーにとっては夢のような環境ですが、あまりにシュールというか、現実のこととは思えませんでした。一方で、有田の町の商店はおしなべて同じような有田焼の商品を置いているということにも気づいたのです。この状況はどうしたものでしょうか

 

- 磁器のデザインは初めてだと聞いています。

はい。磁器づくりはとても難しいですね。窯の中で2回焼成するまで土は生きもの。変化し続けているのです。だから最後まで何が起きるかわかりません。焼成する前に乾かすだけでも土は収縮しますし、焼くと収縮はもちろん、色も変容します。焼く際に窯のどの位置に置くかで焼き上がりが変わってきますし、驚きの連続でした。私はこれまで銀器をはじめ、メタルのデザインはしていますが、磁器はほかの素材と違って独特の性質を持っています。どの分野でも職人の経験値がものをいうわけですが、磁器は経験豊かな職人でも苦労されていると思います。完ぺきは不可能に近いのです。感心するのは、これだけ扱うのが難しい手に負えない磁器だと思うのに有田焼の職人さんたちはコントロールできています。

 

- 窯元を見学してどのような感想を持ちましたか?

ある窯元は、底は厚みがあり、縁に行くにしたがってとても薄くなる器ものを量産レベルで焼くことができるんです。同じ器で厚みが随分違うところがあると熱が均一に伝わらないのでヒビが入ったり、欠けたりすることが多いものです。
少なくとも現在のヨーロッパではできない技です。この技を生かさない理由はありません。技というよりも、積み上げられてきたノウハウでしょうか。その上で私の役割はこれまでにないものを作ることだと思っています。たとえばカップ、お皿という決まった類型があるとすれば、人間の暮らしの中でこれまでどのようなカップ、お皿の形が作られてきたのか、リサーチをしました。そしてこうしたアイテムが時代ごとにどのような状況で使われてきたのか、ヴィジュアルでの比較も行います。これまでプロジェクトのたびに写真を集めていて、そうした集めたイメージバンクの中からプロジェクトごとにコンセプトに合うイメージを掘り起こす作業を行います。

 

- プロジェクトごとに新たなプロセスでデザインするそうですね。どのような意味ですか?
ドイツのデザイナー、コンスタンチン・グルチッチのもとで働いていたとき、彼から学びました。新しいプロジェクトに取り組むときは、前のプロジェクトの続きと思ってはいけないということ。スプーンのデザインは車、椅子、ティーポットのいずれのデザインとも異なる方法で取り組む必要があります。新しいプロジェクトは異なる素材、異なる環境、異なるクライアントなのですから。頭を切り替える必要性を学びました。最初の切り替えが肝心なのです。

 

- 16組のデザイナーが16組の生産者、商社とともに一つのブランド「2016/」のもと、それぞれ新しい有田焼を開発するという先例のない取り組みについて、どのように考えていますか?

すごいことだと思いますし、大胆で野心的だと思います。このプロジェクトを考え出し、佐賀県、および多くの有田焼の窯元や商社を納得させた柳原さんはすごいと思いますが、この冒険を信じ、自らを投じることにした窯元や商社の人たちの勇気にも感心します。でもそうするしかない状況にあったのかもしれませんね。私を含め、デザイナーとしては責任重大です。ユーザーが買いたいと思うような魅力的なデザインをつくり、生産者の仕事がまわっていくようにしなければなりませんから。最終的には16組の取り組みから生まれた有田焼が売れないことには成功したことにはなりません。ビジネスの世界はシビアです。とはいえ、このプロジェクトを通して培われた人間関係は有田の町に新たなプロジェクトをもたらすと思います。これだけ多くの人が関わっていることというのはすぐに終わることはありません。意識が高く、聡明で、才能ある人たちばかりが関わっているプロジェクトが成功しないはずはないと私は信じています。